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AIはミレニアム懸賞問題を解いたのか:OpenAIのリーマン予想・ホッジ予想・ナビエ–ストークス方程式の主張(2026年10月)

2026年10月31日時点で、クレイ数学研究所が認めたAIによる解決はありません。ナビエ–ストークス、リーマン予想、ホッジ予想の撤回、ヤン–ミルズ、P対NPをめぐる主張と確認状況を整理します。

目次
  1. ミレニアム懸賞問題は何問解かれたか
  2. クレイが懸賞金を出す条件
  3. OpenAIはナビエ–ストークス方程式を解いたのか
  4. OpenAIはリーマン予想を証明したのか
  5. ホッジ予想:OpenAIはなぜ論文を撤回したのか
  6. バーチ・スウィンナートン=ダイアー予想(BSD予想)
  7. ヤン–ミルズ:「存在」の主張と質量ギャップ
  8. P対NP問題と指数時間仮説(ETH)
  9. 数学者はAIの主張をどう見ているか
  10. 「AIが解いた」という見出しの読み方
  11. Papexでの扱い
  12. 出典

公式には、解かれていません。ミレニアム懸賞問題を2000年に設定したクレイ数学研究所(以下、クレイ)のページを2026年10月31日に確認したところ、AIを使って得られた解決として認められたものは1つもありませんでした。7問のうち「Solved(解決済み)」はグリゴリー・ペレルマンが証明したポアンカレ予想だけで、5問は「Unsolved(未解決)」、ナビエ–ストークス方程式の問題は「Active」と表示されています。クレイが賞の検討を始めるのは、査読のある出版物に掲載され、2年が経ち、数学界で一般に受け入れられた後です。

それでも、この秋にはAI企業からいくつもの主張が出ました。OpenAIは2026年9月8日、ナビエ–ストークス方程式の問題を外力のある場合の「解の爆発」によって解決したと主張しました。リーマン予想については証明の主張はなく、関連する「準リーマン予想」などの部分的な結果が出ています。ホッジ予想ではOpenAIが特殊な場合を主張しましたが、そのうち3本は符号の誤りが見つかって撤回されました。ヤン–ミルズ理論ではOpenAIが「存在」を主張していますが、問題のもう半分である質量ギャップには触れていません。P対NP問題そのものへの主張はなく、OpenAIとAnthropicがそれぞれ、関連する指数時間仮説(ETH)を否定する結果を主張しています。いずれも、外部の独立した確認はまだ終わっていません。

以下では7問を順に、誰が何を主張し、何が確認されているかを整理します。各主張の確認日は出典に記しました(クレイの一覧ページは2026年10月31日に再確認)。Papexは数学的な正しさを判断しません。各出典が述べていることを、そのまま伝えます。

ミレニアム懸賞問題は何問解かれたか#

クレイの数え方では、7問中1問、ポアンカレ予想だけです。5問が未解決、ナビエ–ストークス方程式が「Active」です。

問題分野クレイの表示(2026年10月31日)AIに関わる主な主張Papexのページ
P対NP問題計算複雑性理論UnsolvedP≠NPそのものへの主張は見当たらない。関連する指数時間仮説を否定したとする主張がOpenAIとAnthropicから(10月26〜27日)P versus NP
リーマン予想数論Unsolved部分的な結果:Anthropic(8月、臨界線上にある零点の割合の下限)、OpenAI(10月、準リーマン予想)とその後の改良Riemann hypothesis
ホッジ予想代数幾何学Unsolved部分的な結果:OpenAI(10月、特殊な多様体の族)。うち3本は符号の誤りで撤回Hodge conjecture
バーチ・スウィンナートン=ダイアー予想数論Unsolved部分的な結果:OpenAI(10月、セルマー余階数が0または1の楕円曲線)Birch and Swinnerton-Dyer
ナビエ–ストークス方程式偏微分方程式Active外力のある場合の解の爆発(命題CとD)による解決の主張:OpenAI(9月8日)、Leanによる形式化つきNavier–Stokes
ヤン–ミルズ方程式と質量ギャップ数理物理学Unsolved純粋なヤン–ミルズ理論の「存在」の主張:OpenAI(10月26日、資料は未公開)。Claudeを使った公開の試み(著者自身が「暫定的」と明記)。質量ギャップについての主張はないYang–Mills
ポアンカレ予想位相幾何学Solvedなし。ペレルマンが2002〜2003年に証明なし

ポアンカレ予想について、クレイのページは、リチャード・ハミルトンのリッチフローを土台にしたペレルマンの2002年と2003年のプレプリントを解決として挙げています。クレイは2010年3月18日にペレルマンへの授賞を発表し、AP通信は同年7月1日、ペレルマンが100万ドルの賞金を辞退したと報じました。

クレイが懸賞金を出す条件#

クレイの規則は、解決案を検討する前提として3つの条件を定めています。(i) 規定の出版物(Qualifying Outlet)に掲載されていること、(ii) 掲載から少なくとも2年が経っていること、(iii) 世界の数学界で一般に受け入れられていること、です。規定の出版物とは、規則の文書によれば「世界的に評価の高い、査読のある数学の出版物」などです。クレイは「解決案の直接の投稿を受け付けない」ともしています。

この規則に照らすと、企業のブログやGitHubで発表された結果は、すぐには賞の対象になりません。2年の期間は、規定の出版物に載った時点から数えます。また、規則には「解決が、それ以前に発表された知見に決定的に依存しているかどうかに特に注意を払う」とも書かれています。

OpenAIはナビエ–ストークス方程式を解いたのか#

公式にはまだです。OpenAIは解決を主張し、クレイは問題の表示を変えましたが、規則上、賞の検討は規定の出版物への掲載から2年後になります。

問題が求めていること:チャールズ・フェファーマンによる公式の問題文は、4つの命題のうち「いずれか1つの証明」を求めています。命題(A)と(B)は、外力がないとき、任意の滑らかな初期速度から滑らかな解が全時間にわたって存在する(全空間でエネルギー有限の場合と、周期的な箱の場合)というものです。命題(C)と(D)はその逆で、ある滑らかな初期速度と滑らかな外力に対して、全時間の解が存在しないというものです。つまり、外力を使った具体例を1つ注意深く作れば、問題に答えたことになります。

OpenAIの主張:OpenAIは2026年9月8日、研究記事「On the Navier–Stokes Millennium Prize Problem」と166ページの論文、Leanのリポジトリを公開しました。記事は「公式のミレニアム懸賞の定式化における命題『C』(と『D』)を確立することで、ナビエ–ストークスのミレニアム懸賞問題を解決する」と述べています。論文は、どんな正の粘性に対しても、「静止状態から始まり、運動エネルギーは一様に有界なまま、有限時間で速度が非有界になる」流れを、空間的にも時間的にもコンパクトな台を持つ滑らかな外力で作ったとしています。

OpenAIによれば、この結果は「社内モデルで動く、協調するエージェントのシステム」から得られ、見つけたグループには「1万程度の同時に動くエージェント」がいました。同じ発表では外力のないオイラー方程式の爆発も主張していますが、オイラー方程式はクレイの懸賞問題の対象ではありません。OpenAIは「この結果でミレニアム懸賞を請求するつもりはない」とも書いています。

クレイの反応:クレイは9月11日の声明で、ナビエ–ストークス問題が「どうやら解決された(has apparently been settled)」という発表を受けて世界の数学界とともに興奮を分かち合う、と述べました。同時に、規則が定める評価と功績の帰属の手続きは「意図的に急がない」ものだとしています。インターネットアーカイブの保存版によると、問題ページの表示は9月9日から10日の間に「Unsolved」から「Active」に変わりました。

Leanの証明が示すこと:Leanによる証明は、形式的な命題が、Leanの規則と使ったライブラリから導かれることを示します。それが賞の問題を解いたことになるかは、その形式的な命題がフェファーマンの命題(C)と同じことを言っているかにかかっており、その確認は人が行います。トーマス・ヘールズはテレンス・タオのブログへの寄稿(10月9日)で、「ステートメントの忠実さを確かめる人による監査が行われるまで、Leanの証明は受け入れられるべきではない」と書きました。彼は、この形式化が「すでに十数人の証明チェッカーによって確認された」と伝えつつ、「異なるカーネルで証明を照合しても、すべての疑いが消えるわけではない」と付け加えています。

疑問を示す論文もあります。Bastounis、Circelli、Hansenは、AIによるLeanへの翻訳で意味が失われうると論じ、「形式化されたLeanの証明は、ナビエ–ストークス方程式の解の爆発の自然言語による証明と対応していない」と主張しています(arXiv:2610.08144)。Constantin、Ignatova、Vicolは、OpenAIの構成と同じ特徴を持つ構成では、外力は特異点の近くで消えることも実解析的であることもできない、と証明しました(arXiv:2609.20803)。この種の構成には特異点の近くで外力が必要なので、外力のない場合の問いには答えません。Tapio Schneiderも「外力のない版の問題、つまり外力なしで滑らかな解が全時間存在するかどうかは、未解決のままである」と書いています。

先取権をめぐる論争:OpenAIの発表の数時間前、ニューヨーク大学のTristan Buckmasterと、Anthropicの社員であるLevent Alpögeが、外力のあるオイラー方程式などの有限時間爆発を、Leanで検証した形で発表していました。Buckmasterの声明は、ClaudeやOpenAIのCodexなど複数のLLMを使ったこと、これが個人的な共同研究であることを述べ、9月6日のOpenAIとの通話の内容を記しています。OpenAIは外力のあるオイラー方程式での二人の先取権を認め、自社の研究者とエージェントは二人の公開前にその研究を見ていないとしています。発言の一部について、OpenAIの研究者は謝罪しました。

Claudeがナビエ–ストークスを解いたという噂:9月の発表の前に、Anthropicがミレニアム懸賞問題を解いたという噂が広まりました。テレンス・タオは9月5日、「ナビエ–ストークス問題が解決された可能性についての最近の噂について、重要な進展は把握していない」と投稿しています。2026年10月15日時点で、Anthropicのニュースと研究のページにナビエ–ストークスの論文や主張はありませんでした。OpenAIは後に、この噂がBuckmasterとAlpögeの研究に関係していたと気づいたとしています。二人の結果はナビエ–ストークス方程式ではなくオイラー方程式についてのもので、二人ともAnthropicの事業ではなく個人の研究だと説明しています。

OpenAIはリーマン予想を証明したのか#

いいえ。証明を主張している人はいません。リーマン予想は、ゼータ関数の非自明な零点の実部がすべて1/2である、という予想です。AIに関わる部分的な結果は2種類あります。

Anthropic(2026年8月):Anthropicは8月10日、「未公開の研究版のClaudeが、リーマン予想を満たすゼータ関数の零点の割合について、長年の下限を改善した」と報告しました。下限は41.6%から67.2%に上がったとしています。社員がClaudeにリーマン予想そのものを試させたが「成功しなかった」こと、そして「Claudeが使った手法がリーマン予想の証明につながるとは考えていない」ことも書いています。arXiv版はLevent AlpögeとRalph Furmanを著者とし、「証明はClaude(Anthropic)が自律的に発見し、記載の著者が検証して伝えた」と注記しています。その後、Youness Lamzouriが「概念的により単純な」別証明を示しました。

OpenAI(2026年10月)と準リーマン予想:OpenAIは10月6日、多数の原稿をGitHubリポジトリで公開し、その中に準リーマン予想に関する2本がありました。準リーマン予想とは、ある1未満の定数より実部の大きい零点がない、という予想です。1本目はLeanで形式化され、ゼータ関数を含むすべてのディリクレのL関数について、実部が7/8を超える零点がないと主張しています。2本目は別の方法で11/12という弱い値を主張しています。1本目の論文自身が「この定理はリーマン予想やその一般化を確立するものではない。リーマン予想は未解決のままである」と書いています。

その後、この7/8を下げたり、より多くのL関数に広げたりする後続の研究が続きました。Papexが10月30日までにたどれたものは9件で、最新は10月29日にBaiying LiuがHexagonに投稿した論文です。すべての数体上のヘッケのL関数について約0.874468という値を主張し、Leanでの形式化は「進行中」としています。7/8=0.875からの改善は小数第4位の話で、リーマン予想が求める0.5とは大きく離れています。

専門家の反応は分かれています。Quanta Magazineは10月19日、専門家たちは「結果が正しいことにおおむね同意している」と伝え、Maksym Radziwiłłの「ある意味で、リーマン予想の帰結の大部分は、すでに準リーマン予想から従う」という言葉を紹介しました。一方、Peter Sarnakは、人がすべての細部を確かめて理解するまでは「定理」として満足しないと述べています。Frank Calegariは10月8日、こうした解析的な議論の改良では「リーマン予想全体の証明には足りない」という考えを、「少し確信は弱まったものの」まだ持っていると書きました。詳しい経緯は英語の解説記事にまとめています。

ホッジ予想:OpenAIはなぜ論文を撤回したのか#

ホッジ予想は、クレイの説明によれば、「代数方程式系の解集合の位相のうち、どれだけをさらなる代数方程式で定義できるか」を決める予想です。「解集合の次元が4未満の場合など、特別な場合には知られているが、4次元では分かっていない」とされています。

OpenAIの主張:10月6日の公開分には、特殊な場合にホッジ予想を主張する原稿が複数含まれていました。その中には、虚数乗法を持つ複素アーベル多様体についての原稿など、現在も主張として残っているものがあります(10月15日時点で、いずれもリポジトリにLeanの形式化はありませんでした)。

撤回された3本:一方で、ホモロジー的ミラー対称性を使って特殊な場合を示そうとした3本、「分裂型アーベル8次元多様体上のヴェイユ類」「K3曲面の久賀–佐武対応」「K3曲面の積」についての原稿は撤回されました。久賀–佐武対応は、久賀道郎と佐武一郎の1967年の論文にちなむ名前です。撤回告知はそれぞれ「この撤回は証明に関するものであり、数学的な命題が偽であると主張するものではない」と書いています。撤回の日付は、告知では10月6日、変更履歴では10月7日、告知を加えたコミットは10月8日05:03(UTC)と、見る場所によって異なります。

誤りを見つけた人:OpenAIの告知は、誤りがどう見つかったかを書いていません。後述の論文によれば、符号の問題を最初に指摘してOpenAIに報告したのはNathan Humphreyです。彼は10月7日にGitHubとSubstackで検証を公開し、リポジトリには「ClaudeとGPTモデルとともにNathan Humphreyが検討した」と書かれています。

専門家による診断:インペリアル・カレッジ・ロンドンのYankı Lekiliとエディンバラ大学のNick Sheridanは、10月22日に9ページの論文「Rigidity, flexibility, and a sign error」をarXivに投稿しました。3本の論文は、ミラー側で「障害のない(unobstructed)ラグランジュはめ込み」を作る段階で同じように破綻していたといいます。原因は符号の規約です。OpenAIの論文は自己交差点の符号を標準の規約で数えていましたが、依拠した2013年の論文(Ekholm、Eliashberg、Murphy、Smith)は暗黙のうちに逆の規約を使っていました。その結果、2013年の構成では常に次数2の自己交差点が残り、それが障害を生みます。Lekiliらは、2013年の論文は逆の規約を一貫して使っており、その規約を前提にすれば結果は正しい、としています。

Lekiliらは論文の他の部分は分析しておらず、定理が偽だとも言っていません。一方で、ホモロジー的ミラー対称性を使ってホッジ予想の場合を示すという方針は「興味深く、追究する価値がある」とも書いています。クレイはホッジ予想を引き続き未解決としています。詳しくは英語の解説記事をご覧ください。

バーチ・スウィンナートン=ダイアー予想(BSD予想)#

ここでも主張は特殊な場合だけです。OpenAIの論文は、ある素数qで、q冪のセルマー群の余階数が0または1である有理数体上の楕円曲線について、主要項の公式を完全に示したと主張しています。予想はすべての階数にわたります。Frank Calegariの第一印象は、これらは「文献にある結果の技術的な改良」で、「高い階数のBSD予想に向けた本当の前進ではない」というものでした。Ashay Burungaleは10月15日、Calegariのブログへの寄稿で「発表された証明の正しさは、なお調査中である」と書いています。

ヤン–ミルズ:「存在」の主張と質量ギャップ#

クレイの問題は2つのことを同時に求めています。アーサー・ジャッフェとエドワード・ウィッテンによる公式の問題文は、「任意のコンパクト単純ゲージ群Gに対して、非自明な量子ヤン–ミルズ理論がℝ⁴上に存在し、質量ギャップΔ > 0を持つことを証明せよ」としています。質量ギャップとは、真空のあらゆる励起のエネルギーが少なくともΔあること、つまり最も軽い粒子が正の質量を持つことです。ジャッフェとウィッテンは、これが「核力が強いのに到達距離が短い理由を説明するのに必要」だと書いています。

OpenAIの主張:OpenAIは10月26日、量子色力学(QCD)や標準模型の統一的な完成を含む、4次元のゲージ場とフェルミオンを持つ相互作用する量子場の理論の「数学的に厳密な存在証明」を発表しました。その「部分問題として」、純粋なヤン–ミルズ理論の存在の証明が含まれ、これはミレニアム懸賞問題の「一部」だとしています。発表は質量ギャップに触れていません。OpenAIによれば、モデルは9月9日にヤン–ミルズの存在証明を、9月18日にQCDの証明を生成し、10月16日にLeanでの形式化を終えましたが、資料はまだ公開されていません。

監修委員会:デイヴィッド・グロス(委員長)、Michael R. Douglas、アーサー・ジャッフェ、Igor R. Klebanov、Nikita Nekrasovの5人による委員会が、OpenAIから証明の公開の進め方を任されています。カブリ理論物理学研究所(KITP)が10月28日に掲載した声明によれば、AIが生成した証明は1,147ページあります。委員会はまず定義と問題設定が物理学と数学の標準と一致するかを確かめ、その後にLeanの証明を、正しさに納得した後に全文を自らの評価とともに公開するとしています。証明は「QFTを厳密な数学的基盤に置くための重要な一歩に見える」としつつ、「閉じ込めと質量ギャップは、依然として非常に重要な未解決の課題である」と明記しています。一方、AI企業に助言する数学者のグループ「数学とAIに関する諮問グループ(AGMAI)」は10月26日、資料をすぐに公開するようOpenAIに求めました。

Claudeを使った公開の試み:Ethan SussmanとLevent Alpögeは10月6日から、Claudeで生成した原稿をGitHubリポジトリに公開しています。READMEは冒頭で「内容は十分に精査されていない。すべての主張は検証待ちの暫定的なものと理解されたい」と警告しています。主な原稿は3次元の理論(QED3とYM3)についてで、4次元の草稿は「質量ギャップを扱わない」と明記しています。

どちらの取り組みも、すべてが正しかったとしても、質量ギャップが問題の一部である以上、クレイの問題は未解決のままです。詳しくは英語の解説記事をご覧ください。

P対NP問題と指数時間仮説(ETH)#

P対NP問題(P≠NP予想)そのものについて、AI企業の主張は見当たりません。P対NP問題は、答えをすばやく確かめられる問題は、すべてすばやく(多項式時間で)解けるのか、という問いです。

近い話題として、指数時間仮説(ETH)を否定したとする主張が2つ出ています。ETHは、ある正の定数δがあって、3-SATという問題は変数の数nに対して 2^(δn) 時間より速くは解けない、という広く使われてきた仮定です。OpenAI(論文は10月17日付、25日改訂、26日公開)とAnthropic(10月27日03:07 UTC公開、著者表記は「Claude, Anthropic」)は、それぞれ、3-SATの充足割り当ての数を 2^o(n) 時間で数える決定的アルゴリズムを主張しました。両社とも、モデルが発見したのは同じ10月16日だとしています。

これはP対NP問題を解決しません。指数時間より速いことは、多項式時間であることを意味しないので、P≠NPは十分にありえます。Anthropicの論文も「私たちの結果はP対NP問題に直接は関係しない」と書いています。

確認は始まったばかりです。ETHを提唱した2人を含むRussell Impagliazzo、Ramamohan Paturi、Ryan Williamsが公開の検証を組織していますが、「私たちの関与を、主張へのお墨付きと受け取らないでほしい」と書いています。10月30日時点で、彼らによる判断は公表されていません。Carlos Toledoは両社のLeanの証明を複数のカーネルで再検証し、どちらも受理されたと報告しましたが、「ETHが偽であることを確定させるものではない」と結論しています。OpenAIのLeanの証明は、論文より弱い指数の上界しか示していません。PapexのETHのページは、出典に従い「Claimed」(主張あり)と表示しています。詳しくは英語の解説記事をご覧ください。

なお、同じ10月26日のOpenAIの発表には、局所平滑化予想の証明の主張も含まれており、それが正しければ、掛谷宗一が1917年に提起した問いに由来する掛谷予想も全次元で従うとしています。掛谷予想はミレニアム懸賞問題ではありません(英語の解説記事)。

数学者はAIの主張をどう見ているか#

反応は、大きな前進という評価から、何が確かめられたのかへの疑問、発表の仕方への批判まで幅があります。ナビエ–ストークスの構成の一部を読みやすく書き直したZhen LeiとXiao Renは、OpenAIの研究を「ナビエ–ストークスのミレニアム懸賞問題における大きな前進」と評価しています。

慎重な声も目立ちます。テレンス・タオは9月11日、25人のフィールズ賞受賞者を最初の署名者とする宣言「A Severe Misalignment of AI in Mathematics」を掲載しました。特定の企業名は挙げずに「AI企業の目標と数学界の目標は、深刻にずれている」と述べ、AIによる解決が「きちんとした論文化や、新しい方法と発想の切り出し、他者の関連する先行研究の引用をする時間もなく、急いで発表される」ことを問題にしています。ティモシー・ガワーズは、内容の多くに同意しつつ署名しなかった理由を説明しています。

2026年6月には、人工知能と数学に関するライデン宣言も発表されました。ギズモード・ジャパンの記事(2026年6月17日)によれば、宣言はAIの利用を非難するものではなく、AIが生成した証明を数学の確立された検証の手順に組み込むことの難しさや、厳密な検証を経ずにプレスリリースやブログ記事で成果が広まると、誤りがあっても数学者が修正しにくくなることを指摘しています。

「AIが解いた」という見出しの読み方#

発表ではなく、問題そのものの記述と、その問題を管理する機関から読み始めます。8つの問いが役に立ちます。

  1. どの命題か:外力ありか外力なしか、特殊な場合か予想全体か、準リーマン予想かリーマン予想か。フェファーマンの4つの命題のような公式の文言と比べます。
  2. 完全な証明を含む論文はあるか、それはどこにあるか:ブログ記事、GitHubのリポジトリ、arXiv、査読のある雑誌は別物です。クレイが数えるのは規定の出版物だけです。
  3. Leanの証明があるなら、形式的な命題を人が確認したか:カーネルの検査が示すのは形式的な定理が導かれることで、それが見出しの定理と同じかを示すのは人による確認です。
  4. 企業の外の誰が確認したか:名前の分かる専門家が自分の場で書いたものを探し、実際に何と言っているかを読みます。
  5. 問題を管理する機関は何と言っているか:公式の状態を決めるのは、クレイのページの表示や、問題リストの管理者です。
  6. 改訂や撤回はあったか:変更履歴や版の履歴を確認します。OpenAIのナビエ–ストークスの記事は9月10日に、Anthropicのリーマン予想の記事は8月13日に改訂され、ホッジ予想の3本は撤回されました。
  7. ほかに誰が取り組んでいたか:先行研究や同時期の研究があるか、引用されているかを確認します。
  8. どうやって、何によって見つかったか:エージェントの数、人の関与、モデル名は企業の自己申告で、外からはたいてい確かめられません。

エルデシュ問題についての同様の主張は、AIはエルデシュ問題をいくつ解いたのかで扱っています。

Papexでの扱い#

Papexは、出典の明らかな問題リストから集めた未解決問題の一覧を公開しており、クレイのミレニアム懸賞問題も含まれています(ページは英語です)。7問のうち6問にページがあり、それぞれクレイのページを出典としています。各ページは出典の状態をPapexのラベルで、確認日とともに表示します。クレイが「Unsolved」とする5問は「Open」、「Active」とするナビエ–ストークスは「Under review」です。

一部の問題ページには「AI-assisted claims」の欄があり、他所で発表された主張を、出典の記述どおりに、改訂、撤回、名前の分かる人の応答とともに載せています。欄の注記は「Claims as their sources state them. Papex has not checked them; the status stays the source’s.」(主張は出典の記述どおり。Papexはそれらを確認しておらず、状態は出典のものです)です。Papexは主張の正しさを判断せず、証明を確認せず、Leanも実行しません。主張の一覧は/ai-claimsにもあります。

未解決問題に取り組む研究者は、AIツールを使ったかどうかにかかわらず、その試みをPapexの記録にできます。署名するまでは非公開の下書きです。署名はその版と研究者を結び付け、版にはOpenTimestampsによるタイムスタンプが付き、ビットコインに記録されます。後の編集は新しい版になります。公開した記録は問題に関連付けられ、問題のページに表示されます。記録中のモデル名は本人の申告どおりです。記録が示すのは、誰がどの版に署名し、その版がいつ存在したかで、査読でも学術誌でもなく、研究が正しいこと、独自であること、最初であることを示すものではありません。

出典#

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