← ブログ

解説26分で読めます

AIは数学の未解決問題を使い果たしているのか:OpenAIの論文722本と、テレンス・タオの警告

テレンス・タオは、AIが数学のよい未解決問題を再生不可能な資源として採掘していると警告しています。タオの発言、一部の数学者が問題を伏せ始めた理由、そして問題の共有の仕方を解説します。

共有

1か月前の2026年10月6日、OpenAIは、AIが生成した数学の原稿722本をGitHubで一度に公開しました。READMEは、それらを372の結果の「ファミリー」にまとめ、背後にある未公開の社内モデルには「約4,000の問題が与えられた」と説明しています。1数日のうちに、数学者たちは、自分が何年も、なかには博士課程のころから取り組んできた問題が、解決を主張されて一覧に載っていることについて書き始めました。

テレンス・タオの警告は、この公開より前にありました。9月初めからMathstodonに続けて書いた投稿で、タオは、何年もの研究に値するよい未解決問題は希少であり、「よい、実りのある未解決問題の蓄えは、いま再生不可能なかたちで採掘されている」と論じました。2さらに、インセンティブは「有望な研究の方向を、もはや広いコミュニティと共有しない方向を指しているのかもしれない」と付け加えています。10月6日には、それがすでに起きていると書きました。「有望な未解決の方向は、いま、自分の研究が『先を越される』(scooped)ことを恐れて、公の場から伏せられている」。3

これは数学の外でも重要です。未解決問題は、分野が学生を育て、新しく来た人にどこに面白い領域があるかを示すための手段です。公開をやめればそれが失われ、新しい規範なしに公開し続ければ、誰も何も学ばない総ざらいの探索で答えが出されてしまうかもしれません。

以下では、OpenAIが何を公開したのか、タオがいつ何を述べたのか、AIは本当に未解決問題を「使い果たして」いるのか(PapexのAI支援の主張の一覧から、週ごとの件数も示します)、なぜ一部の数学者が問題を自分の手元にとどめるようになったのか、代わりに何が提案されているのか、そして価値を保ったまま未解決問題を公開するには今どうすればよいのかを順に紹介します。出典はすべて2026年11月5日に確認しました。

OpenAIは10月6日に何を公開したのか#

GitHubのリポジトリopenai/mathです。最初のコミット時点のREADMEにはこうありました。「現在のカタログには、372のファミリーにまとめられた722本の原稿が含まれている」。1ファミリーは「関連する論文をまとめたもので、主要な結果、それに付随する議論、帰結、別証明を含むことがある」。したがって372は解かれた問題の数ではありませんが、一部の報道はそう説明しました。Retraction Watchは「372の数学の問題の解決における進展」と書いています。4

READMEは、その4,000問からカタログがどう選ばれたかも書いています。「出力を結果のファミリーと原稿にまとめ、適切な水準の重要性を求めた結果、上に概要を示したカタログになった」。モデルがいくつの問題で失敗したかは書かれていません。解かれたものの、載せるほど重要ではないと判断された問題もあるかもしれません。

項目数字記載場所
公開時(10月6日)の原稿722README、最初のコミット1
結果のファミリー372README、最初のコミット
モデルに与えられた問題約4,000README
1つの結果あたりの平均の計算量ChatGPT Proの思考で約3時間README
撤回(10月7日)3本、符号の誤りによるリポジトリの変更履歴5
改訂(10月7日)14本。ほかに、改訂された姉妹原稿を引用するためだけに更新されたものが13本リポジトリの変更履歴
Leanで形式化された主要な結果719のうち300、約42%(10月7日の項目)リポジトリの変更履歴
現在のカタログ373のファミリーの721本の原稿(10月26日に2本が追加された後)README、現在の版6
約束された資金シモンズ財団の取り組みに500万ドル(10月15日の更新)OpenAIの発表7
表1 数字で見るOpenAIの10月の公開。同社のリポジトリと発表自身の記述による。

リポジトリの変更履歴のファイルは、最初の変更を記録しています。ホッジ予想の原稿3本が「符号の誤りにより、安定化トレースの相殺の議論が無効になる」ため撤回され、ほかの14本が「証明の修復、命題の訂正、仮定と依存関係の明確化によって」改訂されました。5撤回についてはOpenAIはなぜホッジ予想の論文3本を撤回したのかで解説しました。OpenAIの広報担当者はRetraction Watchに、結果のおよそ50%は確認されないまま公開されたと語っています。4現在のREADMEには、最初の版になかった1行が加わっています。「功績、先取権、同時期の研究に関することについては、全面的に数学界の判断に委ねる」。6

OpenAIの発表は、「高等研究所の、独立した数学と人工知能に関する諮問グループ」(AGMAI)に相談し、「その助言と公開の勧告を参考にした」としています。79月29日付のその勧告は、発表が触れていない要請で始まっています。「私たちは彼らに、独自のモデル(proprietary models)で高度な数学の問題を試すのをやめるよう求める」。8公開当日、この仕事に報酬を受け取っていない9人の数学者からなるAGMAIは、自らの助言の役割は「これらの結果の影響についての判断や、OpenAIがそれらを得た過程の承認と解釈されるべきではない」と書きました。9

テレンス・タオは未解決問題について正確には何を述べたのか#

UCLAのフィールズ賞受賞者であるタオは、9月にMathstodonの一連のスレッドでこの議論を展開し、10月に改めて述べました。ここでの引用は、本人の投稿からのものです。タオのウェブサイトには、彼の見解の「随時更新される要約」(living summary)もあり、彼はそれを「AIが管理している」と呼んでいます。10私たちは、その要約ではなく、要約のもとになった投稿を引用します。

日付場所述べたこと
9月2日Mathstodon核実験以前に作られた鋼(pre-atomic steel)のように、AI時代以前の未解決問題は「再生不可能な資源に似たもの」になった11
9月3日Mathstodon答えを生み出すことと洞察を生み出すことは「負の相関」を持つようになった。AI企業3社が、Julia Stadlmannによる素数の間隔の新しい上界の改善を競った12
9月5日MathstodonAI企業は、解決ではなく「新しい数学的な洞察を最初に発表すること」を競うべきだ13
9月7日Mathstodon純粋数学の未解決問題は「再生不可能な資源として採掘されている」14
9月8日Mathstodon問題は無限にあっても、よい問題は希少だ。インセンティブは共有をやめる方向を指している。一部の問題には注意深い分析を求めるべきだ2
10月6日Mathstodon有望な方向が、いま「公の場から伏せられている」。解決は「持続不可能なかたちで大規模に収穫されている」3
10月8日Proofs and Prompts学生やポスドクの何年にもわたる忍耐強い研究が「無造作に乱され、あるいは壊される」ことに「ぞっとしている」15
10月9日カリフォルニア工科大学(Caltech)での講演、Math 2.0「数学の未来のフロンティアは、常に広がり続ける」が、問題解決をやみくもに最適化することは「今や積極的に有害である」16
表2 AIと未解決問題についてのテレンス・タオの主な発言、2026年9〜10月(日付は太平洋時間)。

合わせて読むと、議論は4つの段階からなります。

問題は希少でなくても、よい問題は希少である。 タオのたとえはこうです。「ある国や地域は、巨大な海に囲まれていながら、同時に飲み水の深刻な不足に苦しむことがある」。2円周率の10^10^10桁目を問うことは誰にでもできますが、そうした問いのほとんどは「さらなる洞察や、ほかの問いとのつながりを明らかにする特別な傾向を示さない」。どの問いが研究者としての一生に値するかを決めるのは、タオによれば「長く、熟慮を要し、主観的な過程」であり、分野の「難しさの地形」(difficulty landscape)、つまり何が易しく、何が難しくても手が届き、何が手の届かないところにあるかを知っていることにかかっています。

解決は元に戻せない。 9月2日のスレッドは、既知の答えを映画のネタバレにたとえています。1110月6日には、はっきりこう書きました。「『解決』された問題を、どうにかして『未解決』に戻すことはできない。そして、解決が存在すると知っているだけでも、さらなる洞察を明らかにする別の道筋を見つけようとする、人間とAIの両方の努力が『汚染』される」。3

地図のないまま、地形がならされてしまった。 新しい手法はいつも問題を易しくしてきましたが、たいていは探るべき新しい境界を開いてきました。今回は、タオによれば「『AIで解ける』問題と『AIには難しい』問題を分ける明確なフロンティアがない」。この状況は「AI企業が否定的な結果を開示すること、あるいは解決に至る過程を明かすことを拒んでいることで、さらに悪化している」。2

だから、希少な資源は有望な問題そのものである。 「誰かがある問題に取り組んでいるといううわさだけでも、もとの研究プロジェクトが十分に実を結ぶ前に、それをならしてしまうAIを使った大量の取り組みを引き起こしうることを、私たちはすでに見てきた」。2人々が研究の方向を非公開にすることで応じれば、それは「何世紀にもわたるオープンサイエンスの伝統を逆行させ、分野の未来に長期的で深刻な損害を与える」ことになります。

タオは、AIそのものに反対しているわけではありません。9月3日には「先験的には、AIの利用が必ずこのトレードオフを伴わなければならない理由はない」と書き、洞察を加える使い方としてAIによる文献検索を挙げています。12彼が異を唱えているのは、「強力なAIツールを、問題Xが属する分野の人間の専門家の導きなしに、問題Xに答えるという課題に向けること」です。

AIは本当に未解決問題を「使い果たして」いるのか#

ある意味では、使い果たしてはいません。タオもそう述べています。10月9日のカリフォルニア工科大学でのスライドにはこうあります。「プレスリリースやソーシャルメディアが与える印象とは違い、数学の現在のフロンティアにある問題のほとんどは、膨大な計算資源を費やしても、未解決のままである」。16OpenAI自身の数字も同じ方向を示しています。与えられた問題は約4,000、公開されたファミリーは372です。1

別の意味では、使い果たしています。重要な蓄えは、コミュニティがすでに見定め、説明し、取り組む価値があると合意した問題の集まりであり、その蓄えの多くが一度に打撃を受けました。フィールズ賞受賞者のHugo Duminil-Copinは、10月8日に公開された反応の特集にこう書いています。「私がキャリアを通じて公に言及してきた主要な未解決問題(講演、講義、論文、さらには研究費の申請書のいずれであれ)のうち、この発表に手を付けられなかったものは1つもなかった」。15同じ特集で、Tristan Humbertは、「私の博士論文のテーマ」であるKatokのエントロピー予想がその朝に解決を主張されたこと、そしてポスドクに応募しながら、その朝を研究計画の書き直しに費やしたことを書いています。

Frank Calegariは11月1日、タオのブログへの寄稿で、「どの分野でも、中心的な問題について語るとき、私たちは理解のいちばん自然な境界について話しているにすぎない」と応じ、それを越えることは「探究すべき新しい遊び場を見つける最初の一歩」だとしています。17彼の提案は、新しい問題を意図して作ることです。経験豊かな数学者に、「単にAIを使って既存の問いに答えるのではなく、未来の問題を作り、新しい発想を探る仕事を引き受ける」よう勧めています。タオも9月7日、等式理論プロジェクト(Equational Theories Project)について関連する指摘をしています。このプロジェクトは「既存の実り多い問題の鉱脈を掘り尽くすのではなく、研究すべき問題の新しい源を開くために意図して選ばれた」ものでした。14

Papex自身の一覧が示すこと

Papexは、名前の付いた未解決問題についてのAI支援の主張を/ai-claims(英語)に載せています。どれも出典の記述どおりで、私たちは確認していません。2026年11月5日時点でpapex.org/ai-claimsに載っているのは、312の問題についての375件の主張です。このうち、198の問題についての232件は、この記事の前の30日間にあたる10月6日から11月4日までの日付です。3件は撤回されています。ホッジ予想の3本の論文です。

週の始まり(月曜日)掲載されているAI支援の主張(主張自体の日付による)
8月31日16
9月7日5
9月14日9
9月21日5
9月28日16
10月5日135
10月12日6
10月19日7
10月26日39
11月2日(11月4日まで)46
表3 papex.org/ai-claimsに掲載されている、未解決問題についてのAI支援の主張。主張の日付の週ごと、2026年11月5日時点の掲載による。

10月5日の週は、ほとんどがOpenAIです。10月6日付の127件のうち125件は、openai/mathリポジトリからのものです。これは、公開分のうち私たちのカタログにある問題を扱う主張だけで、372のファミリーすべてではありません。10月下旬からの増加は、別のところから来ています。10月7日から11月4日までの日付の105件のうち、79件はHexagonに、19件はarXivに投稿されたものです。10月6日にタオのブログで発表されたHexagonは、数理科学と理論計算機科学のためのリポジトリで、「LLMが完全に生成した投稿や、さらには投稿者が人間の理解を主張しない投稿も認める」ものです。18Hexagonの79件は、主に個人の研究者と小さなチームによるものです。AIについての申告では、36件が主にAIが生成したもの、41件が人間が書いたものとAIが生成したものの混合としており、49件がモデルを挙げています。最も多いのは、ClaudeかGPTのいずれかのバージョンです。

注意点が2つあります。これらは主張であって、結果ではありません。各問題の状態は出典のものであり、Papexはどの主張も確認していません。また、この件数は、投稿されたものだけでなく、私たちが何を載せているかも反映しています。私たちは問題と出典を少しずつ加えており、10月31日からはarXiv、Hexagon、openai/mathリポジトリを毎日読んでいるので、最近の週ほど網羅の度合いが高くなっています。

ある1つの問題が、タオの主張を縮図のように示しています。素数の間隔の上界(bounded gaps)を246から240に下げたJulia Stadlmannのプレプリントは、8月にarXivに投稿されました。タオの説明では、「従来の数値計算の助けを借りたが、現代のAIツールは使わずに」書かれたものです。19Papexの双子素数予想のページ(英語)には、9月3日と4日付で彼女の上界を186、212、182に改善する3件のAI支援の主張と、11月4日にHexagonに投稿された、彼女の指数の1つを改善する4件目の主張が載っています。タオは当時、「問題が汚染される前に、Stadlmannがぎりぎりで分析を終えられたことを、とてもうれしく思う」とコメントしています。12

なぜ数学者は問題を自分の手元にとどめるのか#

公の場で述べた問題は、今では誰でもモデルに貼り付けられ、自分の研究でそれが起きるのを目にした研究者もいるからです。今のところ、証拠は当事者の証言で、調査ではありません。どれだけの問題が伏せられているかを測った人はいません。

  • タオ、10月6日:有望な未解決の方向は「いま、自分の研究が『先を越される』ことを恐れて、公の場から伏せられている」。3
  • Antonio Auffinger、9月22日、タオのブログへの寄稿で:「この数週間、同僚たちが助言を求めて連絡してきて、もうarXivには投稿しないと言っている」。さらにこう書いています。「私も問題の一部だ。学生たちに、進行中の研究を共有するときには特に慎重になるよう助言し始めたからだ」。20
  • トーマス・ブルーム、10月6日、自ら運営するerdosproblems.comで:「多くの人が、AIには太刀打ちできないと考えて、エルデシュ問題について考えるのをやめてしまった」。21彼のサイトの変更については、AIはエルデシュ問題をいくつ解いたのかで取り上げました。
  • タオ、9月のAlpögeとBuckmasterによるオイラー方程式の爆発の結果について:「外部の出来事のために、予定よりはるかに早く公開しなければならなかった」。22
  • Dana Moshkovitz(テキサス大学オースティン校)。解決が主張された問題の1つに10年以上取り組んできた研究者で、11月4日のNPRの番組「Short Wave」で:「これは私にとって人生の――人生の計画だったんですよね? それが、もうなくなってしまった」。23

その代償を最も重く負うのは学生です。未解決問題は、学生を育てる手段だからです。タオを含むフィールズ賞受賞者たちが署名した宣言「A Severe Misalignment of AI in Mathematics」(数学におけるAIの深刻なずれ)は、こう述べています。「学生には、研究やそのほかの場での前進に向けてよい位置に立てるよう、技能を伸ばすことを中心的なねらいとして、問題を勧めることが多い」。24Duminil-Copinは8月にこう問いかけました。「最も手の届きやすい問題が、AIモデルを強迫的に使う人々の破城槌によって、いつ倒れてもおかしくないとき、学生はどうやって数学の力を身につけられるのか」。25

伏せることにも、それ自体の代償があります。10月8日の反応の中で、Bryna Kraはこう書いています。「数学のコミュニティは、おおむね協力的だった。私たちは問いを共有し、進行中の研究について話し、問題への取り組み方についてほかの人に発想を与えてきた」。15Auffingerの心配は、「この私心のない開かれた姿勢が、過去のものになってしまう」ことです。20

答えを出さずにおくことが、意図的で役に立つこともあります。タオが共同で主催するSAIR/LMFDBの逆ガロア問題のチャレンジの第1段階では、参加者は自分の多項式を共有しませんでした。そのため解決は遅れましたが、それぞれの場合がどれほど難しいかについて「価値ある地図を作ることができた」。協力して進める第2段階のためにそれらをすべて公開したことは、「この種の難しさの地図を今後クラウドソーシングで作る能力を、永久に損なった」のであり、主催者はそれを承知のうえでこの取引をしました。11未解決であるという状態は、それ自体が情報になりえます。

代わりに何が提案されているのか#

これらの提案は、どれも誰かを拘束するものではありません。AGMAI自身がこう述べています。「私たちは、どのAI企業においても意思決定の権限を持っていない」。9しかし合わせて見ると、人々が築こうとしている規範の輪郭が見えてきます。

提案誰が、いつ何を変えるか
「注意深い分析」を求める問題を指定する。そうした問題では、生の答えはほとんど評価されない2タオ、9月8日その問題で何が貢献に数えられるか
一部の種類の問題を自動ソルバーの対象外にし、ほかの問題は開放する11タオ、9月2日どの問題が正当な標的になるか
新しい解決ではなく、新しい洞察に最初に到達することを競う13タオ、9月5日ラボが何を目指して競うか
「未解決の解説問題」(open exposition problems):証明の見通しが悪い結果を説明する16タオ、カリフォルニア工科大学のスライド、10月9日理解を加える目標をAIに与える
独自のモデルで高度な問題を試すのをやめる。問題をどう選び、いくつ失敗したかを述べる。どのラボも管理していないリポジトリで公開する8AGMAI、9月29日ラボが研究をどう進め、どう公開するか
問題の状態を示さない、所有を表す言葉を使わない、解説をより重んじる21ブルーム、erdosproblems.com、10月6日未解決から解決へのスコアボードをなくす
ゲノム学のバミューダ原則とフォートローダーデール合意に当たるものを、数学でも見つける。これらは迅速な公開と功績の承認を組み合わせた20Auffinger、9月22日早い段階での共有に、功績がどう伴うか
経験豊かな数学者が新しい問題を作る17Calegari、11月1日問題の供給を補う
表4 未解決問題の価値を守るための提案と、それを誰がいつ行ったか。

最も多く報じられているのは、1つ目の提案です。タオは、「問題を解くだけでなく、解決の過程から洞察を見いだす注意深い分析が望まれるものとして、多くの種類の問題を指定することはまだできる」と書き、そうした問題では「そのような分析のない生の解決は、価値がほとんどないか、むしろマイナスの価値しかない」としています。2タオはこれを、食べられるというだけの寄付をすべて受け付けるのをやめ、本当に求めているものの基準を定めるフードドライブにたとえています。Decryptはこの考えを、問題に「分析必須」(analysis-required)の印を付けることだと要約しました。26このラベルはDecryptのもので、タオのものではありません。

価値を失わずに未解決問題を共有するには、今どうすればよいのか#

まだ標準はありません。以下の手順は、上の提案を私たちがまとめたもので、そのどれかが定めたルールではありません。誰かがあなたの問題にモデルを走らせるのを止めることはできませんが、何を求めているかを示し、日付を付け、答えを比べられるようにします。

ステップ 6 / 6

  1. 正確に述べ、なぜ重要かを書く。 定義を含む命題、参考文献を付けた既知の部分的な結果、そして部分的な前進から何が分かるかを示します。タオの問いが、よい骨組みになります。「Xを解決するために乗り越えるべき主な困難は何か」「既存の手法だけでは、なぜ問題を解くのに不十分なのか」「自然な関連する問いや、その後に続く問いは何か」。12できれば、Leanによる形式的な命題を加えてください。そうすれば、主張された形式的な証明を、あなたが意図したものと照らし合わせて確かめられます。ブルームは、形式化をPalomarに登録するよう求めています。それが「形式的な命題が問題文に正しく一致しているかを確かめやすくする」からです。21
  2. どんな種類の試みを求めているかを書く。 AIの支援を受けた試みも受け付ける、ある日付まで学生やセミナーのために取っておく、あるいは解説問題として出す、などです。タオの言う保護された問題は、この種の社会的な合図に支えられています。タオはそれを、映画のネタバレを思いとどまらせる社会的な圧力にたとえています。11
  3. よい答えに何が含まれるべきかを書く。 たとえば、鍵となる発想、以前の方法がなぜうまくいかなかったか、そして近くのどの問いが変わるか、です。これが、タオの言う注意深い分析です。答えだけを示したものも、主張としてなら記録しておけます。
  4. 試みにはAIの利用を開示するよう求める。 AGMAIはラボに、「モデルの名前、使ったプロンプト、(要約した)思考の連鎖、かかった時間、推定の計算コストを公開する」よう求めています。8どんな試みにも、それを軽くした形が合います。ブルームは、論文が出典を明らかにし、AIをどう使ったかを正直に述べるよう求めています。私たちのガイド論文・レポートで生成AIの使用を明記する方法に、記載例があります。
  5. 日付を付けて、動かない場所に置く。 プレプリント、問題のリスト、保存版を残した自分のページ、あるいは署名とタイムスタンプの付いた記録などです。問題をどう引用してほしいかも書いておきます。それぞれの方法が何を証明するかは、研究アイデアを守る方法で解説しています。
  6. 失敗も含めて、試みの記録を公開しておく。 日付、誰が、どのツールで、結果はどうだったか。「この方法はこういう理由でうまくいかない」も含めます。タオのスライドは、試みから得られる教訓は、「成功したか、失敗したか、部分的な前進にとどまったかにかかわらず」、答えよりも価値があることが多いとしています。16失敗の記録は、タオの説明ではラボが公開していない、難しさの地図の一片でもあります。否定的な結果がなぜ失われるのかは、AI研究エージェントは否定的な結果を隠すのかで取り上げました。
図1 価値を保ったまま未解決問題を公開するための6つの手順。

まとめると、問題の投稿は次のようになるでしょう(角かっこ内は記入欄)。

問題。 [各用語の定義または参考文献を付けた、正確な命題。][日付]に[名前]が[リンク]で公開。[形式]として引用してください。

なぜ重要か。 [解決が何につながるか、既知の方法では何がうまくいかないか、参考文献。]

何が前進に数えられるか。 [それだけでも興味深い特別な場合や上界・下界。]

試み。 [AIの支援を受けた試みを歓迎します。]または[[日付]より前には、この問題に自動ソルバーを使わないでください。学生のプロジェクトのために取ってあります。]

よい答えは、鍵となる発想と、以前の方法がなぜうまくいかなかったかを説明するものです。形式的な証明も歓迎します。その形式的な命題を、上の命題と比べてください。

開示。 使ったAIツールとそのバージョンを挙げ、それが何をしたかを書いてください。

記録。 [失敗したものも含め、日付の付いた試みの一覧へのリンク。]

Papexの位置づけ#

Papexは研究がどのように作られるかを記録するもので、この記事の2つの部分がそれに対応します(アプリの画面は英語です)。予想は、PapexのHypothesis(仮説)として書くことができ、その欄には主張、なぜ重要か、何が誤りを示すかが含まれます。責任を負う人が特定の1つの版に署名すると、その版のソルト付きフィンガープリントにOpenTimestampsでタイムスタンプが付けられ、ビットコインに記録されます。署名者、版、日付は、誰でもアカウントなしで/verify(英語)で確認できます。試みは、AIがどう関わったかを著者の申告どおりに記したDiscovery(発見)またはPublication(論文)として署名でき、後の版は前の版とつながったまま残ります。ナビエ–ストークス方程式(英語)などの問題のページには、名前の分かる出典が示す問題の状態、私たちが/ai-claimsに載せているAI支援の主張、そしてその問題に結び付いた公開のPapexの記録が表示されます。

Papexの記録が示すのは、誰がどの版にいつ署名し、ツールが何をしたと本人が述べたかです。数学が正しいことの証明ではなく、査読でもありません。記録の中のモデル名とツール名は自己申告です。

出典#

  1. openai/math、最初のコミット時点のREADME(OpenAI、2026年10月6日)、2026年11月5日確認 a b c d
  2. テレンス・タオ、海のそばの飲み水としての未解決問題についてのスレッド(Mathstodon、2026年9月8日)、2026年11月5日確認 a b c d e f g
  3. テレンス・タオ、「Math 1.0」と「Math 2.0」についてのスレッド(Mathstodon、2026年10月6日)、2026年11月5日確認 a b c d
  4. OpenAI withdraws three preprints a day after releasing 722 manuscripts on unsolved math problems(Retraction Watch、2026年10月8日)、2026年11月5日確認 a b
  5. openai/math、history.md(OpenAI、2026年10月7日から29日までの項目)、2026年11月5日確認 a b
  6. openai/math、現在のREADME(OpenAI、最終更新2026年10月26日)、2026年11月5日確認 a b
  7. Sharing AI progress in mathematics(OpenAI、2026年10月6日、2026年10月15日更新)、openai.comが自動での読み取りを遮断したため、2026年10月29日のインターネットアーカイブの保存版で2026年11月5日確認 a b
  8. Responsible Release of AI-Generated Mathematics(IASの数学と人工知能に関する諮問グループ、2026年9月29日)、2026年11月5日確認 a b c
  9. AGMAIの声明。About AGMAI(2026年9月22日)とOn OpenAI's Release of Mathematical Results(2026年10月6日)を含む、2026年11月5日確認 a b
  10. テレンス・タオ、Math 2.0(テレンス・タオのブログ、2026年10月10日)、2026年11月5日確認 ↩
  11. テレンス・タオ、再生不可能な資源としての未解決問題についてのスレッド(Mathstodon、2026年9月2日)、2026年11月5日確認 a b c d e
  12. テレンス・タオ、答えと洞察についてのスレッド(Mathstodon、2026年9月3日)、2026年11月5日確認 a b c d
  13. テレンス・タオ、洞察を競うことを提案する投稿(Mathstodon、2026年9月5日)、2026年11月5日確認 a b
  14. テレンス・タオ、等式理論プロジェクトについてのスレッド(Mathstodon、2026年9月7日)、2026年11月5日確認 a b
  15. 100+ reactions to 100+ solutions(Proofs and Prompts、2026年10月8日、反応は10月19日まで追加)、2026年11月5日確認 a b c
  16. テレンス・タオ、Math 2.0、カリフォルニア工科大学での公開講演のスライド(2026年10月9日)、2026年11月5日確認 a b c d
  17. Frank Calegari、Mathematics has changed. Let's act like it(テレンス・タオのブログへの寄稿、2026年11月1日)、2026年11月5日確認 a b
  18. Ben Antieau、Hexagon(テレンス・タオのブログへの寄稿、2026年10月6日)、2026年11月5日確認 ↩
  19. テレンス・タオ、Julia Stadlmannの素数の間隔についてのプレプリントに関する投稿(Mathstodon、2026年9月1日)、2026年11月5日確認 ↩
  20. Antonio Auffinger、Open problems, open mathematics(テレンス・タオのブログへの寄稿、2026年9月22日)、2026年11月5日確認 a b c
  21. トーマス・ブルーム、Changes to the Erdős problems web site(テレンス・タオのブログへの寄稿、2026年10月6日)、2026年11月5日確認 a b c
  22. テレンス・タオ、AlpögeとBuckmasterの爆発の結果についての投稿(Mathstodon、2026年9月7日)、2026年11月5日確認 ↩
  23. OpenAI published tranches of math proofs. Is it hurting the field?(NPR Short Wave、書き起こし、2026年11月4日)、2026年11月5日確認 ↩
  24. A Severe Misalignment of AI in Mathematics(宣言、2026年9月11日)、2026年11月5日確認 ↩
  25. Hugo Duminil-Copin、Care for a little more AI?(Proofs and Prompts、2026年8月30日)、2026年11月5日確認 ↩
  26. AI Is Solving Math's Best Problems Faster Than They Can Be Replaced, Terence Tao Warns(Decrypt、2026年9月9日)、2026年11月5日確認 ↩

共有

ほかの記事

すべての記事